背景
宇宙空間では、プラズマ粒子が非常に高いエネルギーを獲得し、ベキ型のエネルギースペクトルを呈します。したがって、どのようにして宇宙の高エネルギー粒子が生成されるのかという「粒子加速」の問題を解明するには、ベキ指数をしっかり測定することが最初のステップになります。太陽フレアについてはX線観測や電波観測などによって、また、スペース・プラズマ(地球磁気圏や惑星間空間など)については「その場」観測によってベキ指数が精力的に調べられてきました。その結果、衝撃波が関わる現象ではベキがハード(ベキ指数4以下)になり、磁気リコネクションが関わる現象ではソフト(ベキ指数が4以上)になることが指摘されています(Oka et al. 2018)。
問題
しかし、従来の太陽フレア観測は非常に大雑把なものに過ぎませんでした。太陽フレアで磁気リコネクションが重要な役割を果たしていることは分かっていても、磁気リコネクションがそのまま粒子加速までも説明するのか、あるいは、衝撃波が形成されてそれが粒子加速に効いているのか、今も未解明です(粒子加速のメカニズムが不明であることと同義と言えます)。また、地球磁気圏では電子スペクトル形状がカッパ分布になっていることが多いのですが、太陽フレアでは熱的エネルギーから非熱的エネルギーまでシームレスに観測した例が少なかったため、そもそもスペクトル形状の全容を把握することさえ難しい状態でした。以上のことから、粒子加速を解明するには太陽フレアにおけるエネルギースペクトルの計測精度をさらに高める必要があると言えます。
PhoENiXによる解決方法
PhoENiXであれば、軟X線と硬X線を同時に観測するため、熱的エネルギーから非熱的エネルギーに至るまでのスペクトル形状の全体を調べることができます。これは正確なベキ指数の計測に役立ちます。また、衝撃波やプラズモイドなどといったマクロ・スケールのプラズマ現象・プラズマ構造を同時に識別することができます。つまり、それぞれの現象・構造におけるローカルなベキ指数を計測することができ、フレア中の衝撃波におけるベキ指数とプラズモイド中のベキ指数を切り分けることもできます。両者を比較してどちらがより多くの非熱的電子を生成するのか、どのように加速されるのか、などを議論することができるようになります。
分野間連携への期待
太陽フレアにおけるベキ指数の詳細が分かれば、これまで指摘されていたスケール則(Oka et al. 2018 [1])を検証することができます。一般に、粒子加速(とそのベキ指数)は個々のプラズマ環境と境界条件に依存する可能性があるのですが、宇宙の至るところで起きている粒子加速の普遍性を、スケール則の観測的確立を通して見出していきたいです。
[1] Oka et al. (2018), “Electron power-law spectra in solar and space plasmas”, Space Sci. Rev., 214:82, doi:10.1007/s11214-018-0515-4.