背景
 ヘスが気球実験で宇宙線を発見してから100年以上経ちますが (Hess, 1912 [1])、どのようにして宇宙の高エネルギー粒子が生成されるのかという「粒子加速」の問題は今も未解決です。粒子加速は宇宙天体だけでなく、地球惑星磁気圏や太陽フレアなど様々なプラズマ環境で起きていると考えられており、普遍的にして興味深い現象です。特に太陽フレア粒子加速の場合、定説と呼べるシナリオがなく、第49代日本天文学会会長の柴田一成先生も「太陽フレア粒子加速は超難問である」と一時期、様々な場で発言していらっしゃいました。
問題
 難問と言われる理由は2つあります。1つ目は、フレアというグローバルな現象のスケール(~10^7m)と粒子加速という運動論的な挙動のスケール(>~1m)の間に大きな開きがあるからです。2つ目は、太陽フレアで粒子が加速されることが分かっていても、フレアのいつ、どこで加速されるかという(マクロ・スケールで見ても基本的な)情報さえ分かっていないからです。当該分野を進展させるためには、まずこの2つ目の点をすぐに解決しなければなりません。
PhoENiXによる解決方法
 PhoENiXであれば、従来にない高いダイナミック・レンジで軟X線帯域をシームレスに観測できるので、衝撃波(e.g., Masuda et al. 1994 [2])やプラズモイド(e.g., Drake et al. 2006 [3])など、理論的な重要性が指摘されているマクロ構造をしっかり観測できる可能性があります。マクロ構造とその時間発展をおさえつつ、X線の非熱的成分も同時観測できれば、電子加速の文脈(コンテクスト)がはっきりしますので、現在乱立している理論的シナリオを一気に絞り込むことができます。
分野間連携への期待
 フレア現象(爆発的エネルギー解放現象)は宇宙の至るところで発生しますので、太陽フレアにおける電子加速のコンテクストがはっきりすれば、他の天体・プラズマ環境における電子加速を理解する上で、貴重なヒントをもたらすことになります。例えば、太陽フレアでは衝撃波よりもプラズモイドのほうが重要であることが分かれば、パルサーフレアや恒星フレアといった、これまで太陽と同様にコンテクストが不明であった環境においても、プラズモイド・シナリオを追求する機運が高まると考えられます。パラメーターなどを比較してスケール則を見出すことも可能になります。逆に、太陽フレアではプラズモイドよりも衝撃波の方が重要であることが分かれば、パルサーフレアや恒星フレアにおける衝撃波加速のシナリオの検討が進むでしょうし、類似のプラズマ・パラメータを持つ銀河団衝撃波との比較・検討も進むはずです。

[1]  Hess, V. F. (1912), “Über Beobachtungen der durchdringenden Strahlung bei sieben Freiballonfahrten". Physikalische Zeitschrift. 13: 1084–1091, arXiv:1808.02927 (English translation).
[2]  Masuda et al. (1994), “A loop-top hard X-ray source in a compact solar flare as evidence for magnetic reconnection”, Nature, 371, 495-497.
[3]  Drake, et al. (2006), “Electron acceleration from contracting magnetic islands during reconnection”, Nature, 443, 553-556.

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