X線 (a)と電波 (b)で太陽フレアシステム全域が観測できた貴重な観測例で、X-point近傍で電子の加速が起きていることを示した((d)の青色の領域)[1]。

 太陽系最大の爆発現象である太陽フレアは、磁気再結合というプラズマプロセスを介し、太陽大気(コロナ)中に蓄えられた磁場エネルギーを爆発的に解放することで生じる。このことは、観測・理論を両輪とした研究によって明らかにされた。
 また、太陽フレアでは、短時間(数秒)で粒子が光速近くまで加速されることが知られている。これは加速された粒子が、太陽表面やフレアループなど密度の濃いプラズマ領域に突入する際に放つ硬X線の観測によって明らかになったものである。磁気再結合によって引き起こされる太陽フレアでは、電流シート、プラズモイド、衝撃波、乱流、磁気ループの変形など、各々が単体で粒子加速器となりえる構造がシステムとして形成されるため、優秀な加速器であることは想像に難くない。しかし現状は、これらの構造を加速器とする各種加速モデルが乱立している状況で、加速機構についてはブラックボックスの状況である。その理由は、観測例の少なさにある。加速粒子を観測するためには、その粒子が発生する電磁波を観測する必要がある。すなわち、制動放射によるX線、またはジャイロシンクロトロン放射による電波を観測する必要がある。しかし、いずれの場合も既存の観測手法の限界から、ダイナミックレンジ(最も明るい場所に対し、どの程度暗い場所まで観測できるかという能力)が不足しており、フレアシステム全体(特にプラズマ密度の薄いフレアループ上空)の観測が困難であった。
 このような中、非常に稀有なフレアが1999年8月6日、太陽の縁で発生した(図参照)。この領域は、フレア発生前に小規模な爆発を複数回起こしており、フレア発生時にはコロナ中がプラズマで満たされている状態であった。そのため、コロナが放つX線輝度が通常よりも明るく、フレア領域全体が可視化されていた(図(a))。そのおかげで、これまでのフレアでは観測できなかったX-point(磁力線が繋ぎ変わる場所)、即ちエネルギーの解放場所の発展を、空間・時間的に追跡することができた。加えて、電波の観測(図(b))により、非熱的電子(加速電子)の生成の様子を捉えることにも成功した。そして、X線と電波のデータを合わせて解釈した結果、磁気再結合の進行とともに、X-point近傍で粒子が加速されていることを初めて観測的に示したのである(図(d))。X-pointがエネルギー解放場所であることを考えると、この場所が第1段目の加速場所であることが示唆される [1](なお、フレアにおいて2段目以降の加速が起きているかは不明)。
 しかし、このような恵まれた状況下でのフレアの観測例は他になく、今回の結果が一般的なものであるかどうかは、現時点で不明である。
 そこで、軟X線〜硬X線の帯域において、高いダイナミックレンジと空間・時間・エネルギー分解能を達成することが出来る「X線集光撮像分光観測」(PhoENiX)が実現すれば、通常のフレアにおいてもフレアシステム全域を観測することが可能となり、粒子加速機構の解明に迫ることが出来るであろうと強く期待している。

[1]    Narukage et al., 2014, ApJ, 787, 125

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