磁気リコネクションモデルに基づく太陽フレアにおける硬X線、軟X線、電波の放射領域・高度の模式図。低周波帯(m波帯、dm波帯)では、加速電子がコロナ中を運動するときに、その場所の密度に対応するプラズマ周波数で電波を放射するtype-IIIバーストが観測される。[1]

1.    MUSER
 加速電子の観測手段としては、硬X線の他に電波(特にマイクロ波)が用いられるが、太陽観測専用の電波望遠鏡として、1992年以来、太陽電波観測を世界的にリードしてきた野辺山電波へリオグラフは、2020年3月にその運用を終えた。それに代わって、近年、中国で‘Mingantu Spectral Radioheliograph (MUSER)’ が観測を開始した。MUSERは、0.4 GHzから15 GHzの広い周波数帯でダイナミックスペクトル及び撮像観測を行う画期的な装置である。現在、まだキャリブレーション中ではあるが、計画通りの性能を発揮すると、太陽フレアにおける粒子加速研究に大きく貢献することが期待される。
2.加速領域
 太陽フレアにおいて、電子加速が起きている領域については、これまで、リコネクションポイント、リコネクションダウンフロー領域、フレアループ上空の硬X線源、ループ内などいろいろなモデルが提案されているが、観測的に決定されてはいない。m波帯やdm波帯では、加速された電子が運動する際にその場のプラズマ周波数の電波を放射するtype-III バーストと呼ばれる電波バーストが観測されることがある。正/負の周波数ドリフトをするtype-III バーストは、それぞれ、コロナ中を下/上向きの運動をする加速電子が放射していると考えられるので、両者が同時に観測された場合、両者の共通の起点となる周波数帯に対応する密度を持つ領域が加速領域だと推定される(図中の左端のダイナミックスペクトルの模式図参照)。これは、加速領域を絞り込む際、重要な情報になるが、従来の観測はダイナミックスペクトルのみの観測だったので、密度から高度を推測することしかできず、空間的に加速領域を特定できなかった。それに対し、MUSERは撮像観測ができるので、その領域を特定できる可能性がある(ただし、低周波域では空間分解能が悪い(~20秒角@1GHz))。PhoENiXが電波観測から示唆される加速領域付近を同時観測することにより、その領域がフレアに関する磁場構造のどういう位置(例えば、リコネクション領域)に対応しているのか、を知ることができ、電子加速領域への大きな制約を与えることができる。さらに type-IIIバーストを放射する加速電子からの制動放射を直接検出できれば、加速電子の出発点、すなわち、加速領域を見極めることにつながる。

[1] Aschwanden, M., ‘Physics of the Solar Corona’, Springer, 2005.Tsuboi et al., 2016, PASJ, 68 (5), 90 (1–20)

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