背景
 日本の「ようこう」衛星が太陽フレアのループトップ上空硬X線源(通称マスダ・ソース)を発見してから四半世紀が経ちます(e.g., Masuda et al. 1994 [1])。この発見により、磁気リコネクションと呼ばれるプラズマの素過程が太陽フレアに重要な役割を果たしていることが確実となり、太陽フレアの標準モデルが確立しました。現在、マスダ・ソースは何らかの事情で非熱的エネルギーにまで加速された電子が背景プラズマと衝突して出すX線であることが分かっています。
問題
 しかし、そもそもなぜマスダ・ソースに加速電子が存在するのかが分かっていません。どこか別のところで加速された電子が、太陽表面に向かって流れていて(非等方性が強い)、ループトップの高密度プラズマに遭遇してX線を出しているのか、あるいはマスダ・ソース自体に強い乱流があって非熱的電子を閉じ込めたり加速したりしているのか(非等方性が弱い)、分かっていません(一般に、乱流があると粒子の統計的加速を実現しやすくなりますし、単純な輸送(フリーストリーミング)を抑制することもできます)。つまり、マスダ・ソースの電子にどの程度の強い非等方性があるのか(そしてどのくらい乱流的なのか)を知る必要があります。
PhoENiXによる解決方法
 PhoENiXであれば、従来にない高い精度で非熱的放射の偏光を測定することができるので、電子の非等方性が推定できます(e.g., Jeffrey et al. 2020 and references therein)。他のパラメータ(ベキ指数やカットオフの有無など)も偏光度に影響しますが、PhoENiXでも得られるスペクトル情報も合わせれば、乱流が存在するかどうかの判定までできると考えられています(Jeffrey et al. 2020 [2])。なお、PhoENiX搭載型の偏光測定装置では位置の決定ができませんが、太陽の縁によって足元が隠された、いわゆる「occulted flare」の場合であれば太陽全面で最も明るいところがマスダ・ソースである、という解釈が成り立ちますので(フットポイントを除けば、マスダソースはフレアや太陽の他の場所よりも何桁も明るいから)、特に問題ありません。
分野間連携への期待
 スペース分野(地球惑星磁気圏・惑星間空間など)では、「その場」観測によって粒子の非等方性を日常的に直接観測しています(図はLiu et al. 2020による模式図 [3])。太陽フレアのマスダ・ソースにおける電子の非等方性が分かれば、地球磁気圏において「マスダ・ソース」に相当する領域(通称「flow-braking region」)で観測される電子の非等方性と比較することができます。地球磁気圏ではある程度の非等方性がありフェルミ加速やベータトロン加速の実現が指摘されていますが、太陽フレアでも類似の非等方性があることが分かれば、類似のシナリオを太陽フレアにも適用できるかもしれません。

[1]  Masuda et al. (1994), “A loop-top hard X-ray source in a compact solar flare as evidence for magnetic reconnection”, Nature, 371, 495-497.
[2]  Jeffrey et al. (2020), Probing solar flare electron acceleration with prospective X-ray polarimetry missions, A&A, 642, A79, doi: 10.1051/0004-6361/202038626.
[3]  Liu, C. M. et al. (2020), “Electron Pitch-Angle Distribution in Earth's Magnetotail: Pancake, Cigar, Isotropy, Butterfly, and Rolling-Pin”, J. Geophys. Res., 125, doi: 10.1029/2020JA027777.

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