1. 計画の概要
 PhoENiX計画は、磁気リコネクションに伴う粒子加速の理解を科学目的とした衛星計画で、磁気リコネクションが引き起こす太陽フレアを観測対象とし、粒子加速場所の特定、加速の時間発展の調査、加速の特徴の把握を目指す。そのための観測手法として、高いダイナミックレンジと空間・時間・エネルギー分解能を同時に有する「軟X線~硬X線の2次元集光撮像分光観測」と、時間・エネルギー分解能と偏光測定能力を有する「硬X線~軟ガンマ線の偏光分光観測」を用いる。これらは、高精度ミラーと高速度カメラ・高精度検出器を用いて実現する。これまでの太陽フレア観測は、ダイナミックレンジ不足によりエネルギー解放領域(最有力の加速領域候補)が十分に見えていない上、3つの分解能の同時達成が不十分で、高エネルギー帯域の偏光測定も未実施であることを考えると、PhoENiXが初めて真に粒子加速の理解に迫る計画であると言える。
 本計画では、硬X線の2次元集光撮像分光観測により、加速中の電子が存在する場所、時間を同定する。そして、軟X線の2次元集光撮像分光観測から、加速の原因となっている物理過程の把握を行う。加速原因の候補としては、磁気リコネクションが生み出す衝撃波、プラズマの塊(プラズモイド)、フロー、電流シートなどが想定される。これらはスペクトルから得られる物理情報を用いて同定する。また、硬X線~軟ガンマ線の偏光分光観測により、加速方向の非一様性、加速電子の最高到達エネルギー、加速電子が太陽表面に到達するまでの時間などを測定することで、加速電子の特徴を調査する。
 X線~ガンマ線帯域で太陽フレアを観測する本計画は、宇宙空間からの定常的な観測が必須であり、衛星を用いて次の太陽活動極大期である2025年頃の実現を目指す。
 本計画は、粒子加速の理解を目指す研究者が、既存分野の枠組みを超えて参加・推進する分野間連携計画である。
2. 目的と実施内容
 太陽フレアは、磁気リコネクションとそれに関連する電磁流体的構造の全体を空間・時間分解して観測できる唯一の観測対象である。この観測対象に対し、加速電子の検出に適したエネルギー帯(軟X線~硬X線帯域)において、空間・時間・エネルギー分解能を持つ観測を、世界で初めて行う。加えて、硬X線~軟ガンマ線帯域においては、偏光情報の測定(空間分解能なし)も行う。これらにより、太陽フレアにおける粒子加速場所の特定、加速の時間発展の調査、加速の特徴の把握を目指す。
 軟X線~軟ガンマ線帯域は、地球大気によって吸収されるため、宇宙からの観測が必須である。また、太陽フレアの発生予測は困難であり、定常的な観測を必要とする。加えて、太陽フレアの構造を分解するために秒角レベルの空間分解能が必要であり、焦点距離(~全長)が2~3メートルのサイズの望遠鏡を要する。以上より、本計画は、観測衛星を用いて実現する必要がある。
 我々は、必要とする望遠鏡のスペック(搭載可能重量、姿勢安定度、衛星軌道、電力など)から、JAXAの公募型小型程度の人工衛星が必要であると結論づけた。
本計画では、太陽同期極軌道を選択することで、1年間の大半の期間において24時間の太陽観測を実施し、太陽フレアの観測機会を最大限に引き上げる。観測したフレアのデータは、衛星軌道上でデータ処理を行った後、光子1個1個の情報をダウンリンクする。その後は、地上のデータセンターにアーカイブし、観測後一定期間を置いた後に公開することを予定している。観測データの解析に向けては、観測機器の較正データと解析用ソフトウェア群を提供する。運用期間は、太陽活動極大期(2025年頃)近傍の2年間であるが、その後の延長運用も視野に入れている。この様な実施内容のPhoENiX計画は、JAXAの公募型小型計画の枠組みを柱とし、国際協力も得ながら実現を目指す。

3. 学術的な意義
 高エネルギー粒子(加速された粒子)は宇宙の至る場所で発見されているが、「加速粒子の起源は何か?」という問題は宇宙科学における未解決の難問である。
 本計画では、この難問解決へのアプローチとして、太陽フレアを観測する。太陽フレアは、現象全体を空間・時間分解して観測できる唯一の観測対象であると同時に、寿命は数分から数十分と短く、現象の始まりから終わりまでを通して観測することができる。また、様々な規模のフレアが頻繁に発生するため、サンプリングにも事欠かない。これらの点において太陽フレアは、極めて優れた観測対象である。
 ただし、既存の観測手法では、ダイナミックレンジの不足が深刻で、加速されつつある電子の観測が行えていない。加えて、空間・時間・エネルギー分解能の同時達成が困難であり、加速電子の情報取得が十分に行えていないのが実情である。つまり、太陽フレアの持つ利点を活かしきれていないのである。
 本計画では、これら観測上の問題点を最新の技術を用いて解決する。つまり、高精度ミラーで高いダイナミックレンジを確保しつつ高い空間分解能を達成し、高速度カメラ・高精度検出器により光子計測を行うことで空間・時間・エネルギー分解能の両立を行う。また、偏光分光装置も搭載することにより、太陽フレアにおける加速電子の非一様性の情報も取得する。
 この様に、PhoENiXで得られる太陽フレアの観測データは、これまでの観測とは次元が異なり、これらを複合的に解析することで、加速中の電子の情報を詳細に取得することが可能となると見込んでいる。
 PhoENiXで得られる太陽フレアにおける粒子加速に対する知見は、プラズマ環境の違い、得られる情報の質的違いという点で、地球磁気圏や高エネルギー天体の観測で得られている知見と相補的である。これらの知見を合わせることは、統一的な粒子加速の理解の第一歩となり、高い学術的意義を持つ。

4. 国内外の動向と当該研究計画の位置づけ
 粒子加速は、宇宙プラズマ環境の至る場所で観測されており、太陽物理学、地球磁気圏プラズマ、高エネルギー宇宙物理学といった各分野でそれぞれ独立に研究されてきた。PhoENiXが観測対象とする太陽フレアにおける粒子加速の研究では、1980年代~2000年代にかけ、日本の太陽観測衛星「ひのとり」、「ようこう」が大きな役割を果たしてきた。その後、米国の「RHESSI」衛星がその後を継ぎ、研究を牽引してきたが、2018年夏に運用を終了し、現在、世界的に後継機が望まれている状況である。
 この様な状況の中、本計画によって、太陽フレアにおける粒子加速に対する画期的な観測が提案された。この提案は、様々な分野で粒子加速を研究する研究者らの高い関心を集め、PhoENiX計画を推進する新しいコミュニティが形成されつつある。このコミュニティには、太陽物理学、地球磁気圏プラズマ、高エネルギー宇宙物理学、プラズマ実験室といった既存コミュニティに所属する研究者らが国内外問わず参加しており、本計画の屋台骨となっている。

5. 国際協力・国際共同
 本計画は日本が立案・主導し、米国・スイス・ドイツ・英国の研究者も参加する分野横断型・国際共同ミッションである。
 これまで、太陽フレアにおける粒子加速の研究は、観測衛星を核として、国際的な枠組みの中で進められてきた。この様な土壌もあり、PhoENiXは、次世代の太陽フレア研究の核となる衛星のひとつとして、国際的な連携のもとに計画を推進している。
 予算上の国際協力パートナーは、米国・NASA・マーシャル宇宙飛行センター、米国・NASA・ゴダード宇宙飛行センター、米国・ミネソタ大学、米国・カリフォルニア大学バークレー校、スイス・北西スイス応用科学大学、ドイツ・ポツダム天体物理天文台である。米国とは「硬X線撮像分光装置に用いるミラーと望遠鏡構体の提供」、「望遠鏡の性能評価試験の実施」、「データのパイプライン処理とアーカイブ」、スイスとは「フィルターの挿入機構の提供」、ドイツとは「衛星運用のための基地局の提供」について、それぞれ協力体制を構築中である。金額ベースでの負担割合は、日本:海外 = 10:1 (概算)で、日本が計画を主導する。

6. 実施機関と実施体制
 本計画の実施体制は、宇宙航空研究開発機構・宇宙科学研究所(以下、ISAS/JAXA)の公募型小型計画の枠組みの中で構築することを計画している。従って、実施機関としては、ISAS/JAXAを想定している(計画の採択後にISAS/JAXA内に体制が構築される予定)。
 現在は、ISAS/JAXA理学委員会内のワーキンググループ(以下、WG;2017年9月に設立)を母体として、本計画を検討・提案する活動を行っている。このWGには、理学分野(太陽物理学、地球磁気圏プラズマ、高エネルギー宇宙物理学、プラズマ実験室)の研究者ら加え、計画推進に必要な技術を持つ工学分野の研究者らも加わり、総勢約60名が参加している(うち約10名が海外の研究機関に所属)。以下が、WGを率いるメンバーである。
・Principal Investigator:成影典之(国立天文台)
・Project Scientist:岡光夫(カリフォルニア大学・バークレー校)、深沢泰司(広島大学)
・ミッション・システム検討:松崎恵一(ISAS/JAXA)、渡辺伸(ISAS/JAXA)
・軟X線撮像分光装置責任者:坂尾太郎(ISAS/JAXA)
・硬X線撮像分光装置責任者:萩野浩一(東京理科大学)
・軟ガンマ線偏光分光装置責任者:水野恒史(広島大学)
 加えて、このWGには、大学からも、広島大学、名古屋大学、大阪大学などの研究室が組織的に参加している。また、自然科学研究機構・国立天文台との協力体制の構築も視野に入れている。
 そして、国際協力パートナーとして、米国・NASA・マーシャル宇宙飛行センター、米国・NASA・ゴダード宇宙飛行センター、米国・ミネソタ大学、米国・カリフォルニア大学バークレー校、スイス・北西スイス応用科学大学、ドイツ・ポツダム天体物理天文台が参加している。

7. 科学コミュニティの合意状況等
 「実施機関と実施体制」で述べたが、PhoENiX を推進するワーキンググループには、理学分野(太陽物理学、地球磁気圏プラズマ、高エネルギー宇宙物理学、プラズマ実験室)と工学分野から合わせて約60人の研究者が参加している。また、半年に1度のペースで開催している粒子加速研究会には、WG外からも多くの研究者が参加しており、これらの研究者らも合わせ、一つの分野間連携コミュニティー(粒子加速研究コミュニティー)を形成しつつある。そして、PhoENiX計画はその中核を成す計画である。
 また、関連する既存コミュニティーへの働きかけも行っており、PhoENiX計画に対する支持・推薦を、下記3つのコミュニティーから文章の形で得ている。
・太陽研究者連絡会:太陽物理学を研究する研究者が所属するコミュニティー
・高エネルギー宇宙物理連絡会:高エネルギー宇宙物理学を研究する研究者が所属するコミュニティー
・地球電磁気・地球惑星圏学会 粒子加速研究分科会:地球電磁気・地球惑星圏学会の中の分科会

8. 所要経費 
【総経費】
151億円(概算;日本負担分)
166億円(概算;海外負担分も含めた総経費)
※ 検討~2年間の運用に必要な日本負担分の総経費。
※ 運用を延長する場合は別途経費が必要。
※ 海外負担分は約15億円。
【内訳】※《》内に獲得している、もしくは、想定している財源を記載
・ミッションコンセプト検討(2018年度~2019年度): 1億円(概算)《ISAS/JAXAの戦略的開発研究費と科研費などの競争的外部資金を用いて実施中》
・ミッションコンセプト提案~運用(2019年頃~2027年頃): 150億円(概算;日本負担分)《ISAS/JAXAの公募型小型計画の枠組みの中で実施予定》
※海外負担分は約15億円《海外の公募の枠組み (米国のMission of Opportunity など) に申請し確保する予定》
・延長運用(2028年頃~): 年間1.2~1.5億円(概算;これまでの太陽観測衛星の実績では、10年程度運用を延長している。)《ISAS/JAXAに予算申請して実施する予定》

9. 年次計画
・ミッションコンセプト検討(2018年度~2019年度):
衛星計画に必要なシステム検討、キー技術の開発、国際協力体制の構築を実施中。現在、若手研究者や大学院生も検討・開発に参加しており、本計画を通しての人材育成が実施できている。今後も人材育成に務める。
《ISAS/JAXAの戦略的開発研究費と科研費などの競争的外部資金を用いて実施中》
・ミッションコンセプト提案(2019年頃):
宇宙航空研究開発機構・宇宙科学研究所による「公募型小型計画」の公募に提案する。提案の採否が判明するのは2020年頃の見込み。
・観測装置デザイン、製作、試験(2020年頃~2025年頃):
計画の採択後、本格的に計画を推進する。このフェーズに入れば、本計画専任の教員と研究員を若干名採用できる可能性がある。
《ISAS/JAXAの公募型小型計画の枠組みの中で実施予定》
・打ち上げと観測開始(2025年頃):
打ち上げと初期運用、初期観測の実施。
《ISAS/JAXAの公募型小型計画の枠組みの中で実施予定》
・運用(2025年頃~2027年頃):
太陽フレアの観測を実施。ミッション期間は2年間。
《ISAS/JAXAの公募型小型計画の枠組みの中で実施予定》
・延長運用(2028年頃~):
太陽フレアを主たる観測対象として運用を実施するが、太陽の静穏領域や黄道面近くの天体(かに星雲、さそり座X-1など)も観測し、科学成果の拡大を図る。延長運用については、データの利用状況や論文の創出実績を見ながら適宜予算を獲得し、実施していく。これまでの太陽観測衛星の実績では、観測機器は10年程度運用できている。
《ISAS/JAXAに適宜予算申請して実施する予定》
・運用中~運用終了後:
本計画で立ち上げた分野間連携の枠組みを活かし、次の計画の立案・実現へと移行させることで、サイエンス・技術・人材の継続性を確保する。

10. これまでの準備状況
 本計画は2017年度から始動し、2017年9月にISAS/JAXA理学委員会内にワーキンググループ(以下、WG)を設立した。WG内には「科学検討チーム」と「implementation team」を設置し、各々隔週で定例会合を開き、検討を進めている。
 科学検討チームは、科学目的(太陽フレアにおける粒子加速場所の特定、加速の時間発展の調査、加速の特徴の把握)を達成するための方法について、過去の観測データや数値計算を用いて検討を行い、PhoENiXで得られる科学成果の最大化に努めている。また、半年に1回のペースで粒子加速研究会を開催し、最新の研究成果の共有やPhoENiX計画の発信を行っている。
 implementation teamは、科学検討・装置検討・システム検討など、衛星計画推進に必要な検討項目を担当する責任者らから構成されている。2018年度からは、ISAS/JAXAの戦略的開発研究費を獲得し、このチームを中心に、システム検討、キー技術の開発、ならびに国際協力体制の構築を推進している。2018年度の活動により、PhoENiX計画を実現するための衛星案を得るに至っている。
 また、2018年9月には、PhoENiX衛星の科学的・技術的パスファインダーとなる観測ロケット実験FOXSI-3を打ち上げ、世界初の太陽軟X線集光撮像分光観測に成功した(https://hinode.nao.ac.jp/news/topics/foxsi-3/ と https://hinode.nao.ac.jp/news/topics/foxsi-3-data-release-jp-20190115/ を参照)。
この様に、PhoENiX計画の準備は着実に進んでおり、次の「ISAS/JAXA公募型小型・宇宙科学ミッションコンセプト提案」の機会(2019年冬を想定)にPhoENiX計画を提案する。

11. 共同利用体制
 本計画で得られたデータは、データセンターにアーカイブし、観測後一定のプロテクト期間をおいた後に公開することを予定している(プロテクト期間の長さは、今後検討の上、決定する)。
 観測データの解析に向けては、観測機器の較正データと解析用ソフトウェア群をプロジェクト側から提供する。しかし、現在、太陽物理学、地球磁気圏プラズマ、高エネルギー宇宙物理学の各分野では、それぞれ異なるフレームワークの上で解析用ソフトウェア群やデータベースが構築されている。本計画で得られるデータの解析環境を、どのフレームワークをベースに構築するかについては、今後検討を行う。
 運用期間は、打ち上げからの2年間で、JAXAの公募型小型計画の枠組みの中で実施する。その後の延長運用については、データの利用状況や論文の創出実績を見ながら、適宜予算を獲得し、実施していく。

12. 社会的価値
 太陽は人類に最も身近な天体であり、そこで起きる現象の理解は知的価値だけに留まらない。例えば、太陽フレアによって生成される高エネルギー粒子(加速された粒子)やX線などの電磁波は、地球周辺の宇宙環境に大きな影響を及ぼす。つまり、本計画が目指す粒子加速過程の理解は、フレアによる宇宙天気変動の理解や、社会環境への影響の把握を通じて社会へ貢献し得る。
 また、日本は1980年代から世界のX線観測をリードし第一級の科学成果を創出してきたが、PhoENiX計画は、X線観測を発展させてきた高エネルギー宇宙物理分野と太陽物理分野の連携の系譜を汲んだミッションであり、日本が育んできた科学研究、高等教育、観測技術を継続、発展させていく上でも重要である。
 加えて本計画は、高精度ミラー、半導体検出器、金属3Dプリンターなどの最先端技術を活用しており、工学・産業分野との連携で成り立っている。本計画の推進において、現時点でも既に新たな技術の獲得がなされており、今後も更なる工学・産業分野への波及効果が期待できる。

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